初恋

シンイチ先生が音楽室に飛び込んできた。

白いシャツを腕まくりして、小脇に楽譜を抱えて「ごめん、待たせたね」そして微笑む。

 

キャーッ!

集まっていた友だちがいちいち甲高い黄色い声をあげる。

 

あまりにうるさいので、ついに彼女たちは音楽室の外へ追い出された。

 

ピアノの前に座る小さな私に後ろから覆いかぶさるようにしてシンイチ先生は楽譜を楽譜たてに置く。

 

ちょっとスーッとする大人のいい匂い。クラクラして、心臓がキューっと締め付けられる。体の奥から熱い熱い血が吹き出しそう。

 

ハオちゃん13歳、初めて恋に落ちた瞬間。

 

 

舞い上がりながら伴奏の練習、変なとちり方をしたとき。

シンイチ先生はクシャッとした笑顔になって、まあ、いいよ。少しずつだな。と声をかけてくれる。

細くて関節がゴツゴツした長い指で、私のとちった旋律を右手だけでポロポロンと弾く。そして、ホラこんな風に、という目で私を見る。

 

緊張で倒れるんじゃないかと思いながら私はピアノを弾く。。

 

きっと息を吸ったら、シンイチ先生が吐いたいい香りの息を吸い込んで失神してしまうかもしれない…と思ったんだか、なんだか、ほぼ息をしていなかった。酸欠になりながら小さく震えながら、弾き慣れた校歌をトチリながら弾いた。

 

この眩しすぎるシンイチが、将来ダメ夫になるなんて、中学生のハオちゃんにわかるはずもなく。

 

音楽室のガラス窓にへばりついてこちらを見ているハマちゃんたちも、まさかこの2人が後に結婚するなんて考えもしなかったという。

 

しつこいようだが、この眩しすぎるシンイチ先生が、ぽっちゃり体型のダメ夫『ジンイヂ』になっちゃうなんて、、、わかるはずないよーーーーーッ!!